本とお散歩

 今月から、新コーナー・≪本とお散歩≫が始まりました。 今ちまたで話題になっている本・ベストセラー本・お気に入りのお勧め本や思い出に残るあの本との出会いと題して本の紹介や、心温まるエッセイ−やポエムなどを掲載していきたいと思いますので、お楽しみに。

母の木(九年母)

 むかし、あるところに、たいそう親孝行な息子がいました。息子の名はカマーといい、雨を嫌う母親と二人で暮らしていました。
 母親が雨を嫌うのは、大雨による崖くずれでカマーの父親を亡くしたからです。そんなわけで雨がふると、母親は悲鳴をあげながらカマーの手をとり飛んで家に帰りましたが、 いやな顔ひとつせず、それどころか時には母親をおぶって家に帰ることさえありました。村の人たちは、そんなカマーの姿に、心の底から感心していました。
 ある冬の日に、風邪をこじらせた母親が、カマーの熱心な看病もむなしく死んでしまったのです。
 母親を墓に納めたカマーでしたが、雨の日にはクバ笠をかぶせに墓へ行き、雷が天にとどろく夜は、墓の側で一夜を明かしました。
 やがて春になり夏が来て天気のよい日が続いたある日、墓掃除に出かけたカマーが草刈を終えてうたたねをしていると、夢のなかに母親が出てきて言いました。 「カマー、カマーよ。アンマーはもう大丈夫。あんたは家に帰って眠りなさい。アンマーのことは、もう何も心配しないでいいよ。ありがとうカマー。」
 飛び起きたカマーの側では、白い小犬が丸いしっぽを盛んにふっていました。 「アンマーからの贈り物かも。」カマーは、小犬を飼うことにし「しろ」と名づけました。  それから何年かがすぎ、カマーは嫁をもらい男の子が生まれ、翌年「しろ」が眠るように息を引き取り庭の片隅に埋めました。 すると、そこからひとつの木の芽が吹き出し、カマーはこれも母親からの贈り物だと信じ大事に育てました。カマーの子供の背が一寸のびると庭の木も一寸、二寸のびると庭の木も 二寸のび、月日は流れて九年目になりました。 庭の木はたくさんの枝をはり、白い小さな花をいっぱい咲かせました。やがて花は甘酸っぱい味の香ばしい黄金色の実になりました。
 その話はたちまち広がり、だれが名づけたのか、この実を「九年母(くにぶ)」として、カマーの母を思う気持ちをほめたたえました。
 沖縄のみかんの木「九年母」は、それからはじまったといわれています。 (おしまい) 今回の本とお散歩コーナーでは、母の日にちなみ沖縄の昔ばなしから、子が親を思う優しい心を描いた作品を紹介しました。 尚・この物語は、『沖縄昔ばなしの世界』から、一部抜粋して掲載いたしました。 書籍『沖縄昔ばなしの世界』 この本には、沖縄の昔ばなしが二十四作載っています。診療所で貸し出ししますので、興味のある方は、ぜひお読みになってください!